- マイクロアグレッションとは
定義
表面的には悪意がなかったり、何気なく発せられたりする「小さな言動」が、特定の社会集団(人種・性別・性的指向・障害・年齢など)への偏見・差別・ステレオタイプを含んでしまい、相手に精神的な負担や疎外感を与えること。1960年代に精神科医チェスター・ピアスが提唱し、2000年代以降、心理学・社会学で広く使われるようになりました。
- 主な種類
心理学者 Derald Wing Sue らはマイクロアグレッションを以下の3タイプに整理しています:
マイクロアサルト(Microassault)
露骨で意図的な侮辱。小さい行為でも「攻撃性」が明確。
例:「女なんだから車の運転は下手に決まってる」など。
マイクロインサルト(Microinsult)
悪意は自覚されていないが、相手を軽んじる含意を持つ言動。
例:外国出身者に「日本語上手ですね!(=日本人ではないと前提している)」
例:女性社員に「その歳で管理職なんですか?」
マイクロインバリデーション(Microinvalidation)
相手の経験や現実を否定・無視するような発言。
例:差別体験を話す人に「気にしすぎじゃない?」
例:性的マイノリティの人に「結局は普通の結婚したいんでしょ?」
- 具体的な事例人種・民族
アジア系に「箸の使い方が上手ですね!」(=本来日本人などには当然のこと)
黒人学生に「どこのスポーツチームで活躍してるの?」(=学業より運動が得意だと決めつける)
性別
会議で女性の意見が無視され、同じ内容を男性が言った時に評価される。
ITや工学系の職場で女性に「技術職なのに珍しいですね」
性的指向・ジェンダー
ゲイの男性に「本当にゲイ?見えないね」
トランスジェンダーの人に旧名で呼ぶ(デッドネーミング)
障害
車いす利用者に「大変ですね、頑張ってて偉いですね」(=本人を「劣った存在」と前提)
年齢
若手社員に「若いのにしっかりしてるね!」(=若い人は未熟という前提)
高齢者に「この年齢でスマホを使えるなんてすごい!」
- 特徴と難しさ
悪意がなくても相手を傷つける → 発言者に自覚がない場合が多い。
繰り返し積み重なることが大きなストレスに → ひとつひとつは小さくても、「毎日何度も」経験すると、強い疎外感や心理的ダメージになる。
指摘がしにくい → 「そんなに悪気はなかった」と返されやすく、被害者側が「敏感すぎる」と見なされることもある。
- 防止と対応の工夫
意識すること:ステレオタイプに基づいた言葉を使っていないか振り返る。
聞き役になる:相手の経験を否定せず「そう感じたのですね」と受け止める。
包括的な言葉選び:職場や学校では性別・人種に依存しない呼び方を心がける。
被害を受けた側の対応:必ずしも反論する必要はなく、場や相手によって「その表現は違和感があります」と軽く指摘する選択肢もある。
まとめ
マイクロアグレッションは、日常の何気ない発言・態度に潜む差別や偏見の小さな表れです。
その一つ一つは小さいけれど、繰り返されることで大きな心理的負担になります。
意識的に気をつけることが、インクルーシブな社会づくりに繋がります。