社会脳仮説(Social Brain Hypothesis)」は、人間や霊長類の大きな脳がどのように進化したのかを説明する有力な仮説です。
●提唱者の人物紹介
ロビン・イアン・マッキントッシュ・ダンバー(Robin Ian MacDonald Dunbar, 1947–)
出 身:イギリスの人類学者・進化心理学者。
専門分野:進化心理学、霊長類学、行動生態学。
経 歴:オックスフォード大学人類学教授。進化論と人間社会行動に関する研究で知られる。
●代表的業績
「社会脳仮説(Social Brain Hypothesis)」を提唱。
「ダンバー数(Dunbar’s number)」――人間が安定的な社会的関係を維持できる人数はおよそ150人――を提示。
●著書 Grooming, Gossip and the Evolution of Language などで、言語や社会性の進化を論じた。
社会脳仮説(Social Brain Hypothesis)
●基本的な考え方
霊長類(特に人間)の大きな脳、とりわけ前頭前野は 「複雑な社会関係を処理・維持するため」に進化した とする説。
これを「マキャベリ的知能仮説(Machiavellian Intelligence Hypothesis)」とも呼びます。
ポイント
生き残るためには、食料調達や捕食者回避だけでなく、仲間との協力・競争・裏切り・同盟形成といった社会スキルが重要。
そのため「他者の心を読む能力(心の理論)」「駆け引きや戦略的思考」が発達し、脳が大きくなった。
事例
ダンバー数(150人程度)
ダンバーは、霊長類の脳の大きさ(新皮質比)と群れの大きさの間に相関があることを示した。
それを人間に当てはめると、安定した人間関係を保てる人数はおよそ150人となる。
この数は古代村落の規模や現代企業の組織単位(軍隊の中隊規模など)にも一致している。
ゴシップと言語の進化
霊長類は毛づくろい(グルーミング)で社会的絆を維持していた。
しかし群れの規模が大きくなると「1対1」のグルーミングでは時間が足りない。
人間は「ゴシップ(噂話)」を通じて一度に複数人と社会的結束を高められるようになった、とダンバーは主張する。
マキャベリ的行動の観察例
チンパンジーがリーダーを倒す際、複数の雄が密かに同盟を組む。
仲間の気を引くために嘘や誇張をする。
こうした社会的駆け引き(マキャベリ的行動)が生存や繁殖の成功に直結するため、知能が進化したとされる。
●批判・補足
批 判:「大きな脳は道具使用や環境適応のために進化した」という別の説もある。
補 足:現在では「社会的要因+生態的要因」の両方が影響したという折衷的な見方が多い。
現代的意義:SNSやオンライン環境でも、人間が一度に維持できる関係数は150前後に収束することが観察されており、社会脳仮説の妥当性を裏づけている。
●まとめ
人 物:ロビン・ダンバー(オックスフォード大の人類学者)。
説の内容:脳の大きさは「社会的複雑性」によって進化した。
事 例:ダンバー数(150人)、ゴシップによる言語進化、チンパンジーの同盟形成など。